通訳

 通訳としてやってきた女性はほとんど倉敷の日本語学校に行く。ただ、本当の学校ではなくボランティアの組織のような気もするのだが。と言うのは今まで10年以上お金が必要と言う話を聞いたことがないから。中には通訳以外も通い始めるが、通訳以外で3年間全うした人は一人もいない。お金を目的で来日しているのだから、勉強までは気力も体力も追いつかないのだろう。まして乗り物にめっぽう弱い人が多いお国柄だから、バスと電車を乗り継いで牛窓から通うのもなかなかなのだろう。
 今いる通訳も最初は頑張って通っていたが、乗り物に弱いことが災いして次第に足が遠のいていた。ただ勉強する気は十分だから何とか通わなくて学べる方法を探したみたいだ。それが週2回、1時間ずつスマフォで日本人の先生と1対1で勉強するスタイルだ。木曜日と金曜日の夜が彼女の勉強する日だから、邪魔をしないように心がけていた。ところが昨日授業が始まる9時になったので帰ろうとすると、引き止められた。なんとその授業をやめたそうだ。1ヶ月とは言わないが2ヶ月くらいは経ったのだろうか。そこで理由を尋ねると「ベンキョウデキナイ タカイ 1ヵ月半デ 4マンエン」と教えてくれた。その金額に僕は驚いた。日本人にとっても4万円は高いように思う。よくも外国人の実習生が4万円も払えるものだと思ったが、金額と実績に疑問を覚えたのだろう。「オトウサントハナスホウガイイ」は無料と言うのもあるだろうが、話題が圧倒的に楽しいのもあるだろう。ほとんど全員が国に帰りたい気持ちを封印して毎日を懸命に働いているから、僕は彼女達にまず笑いを届けるようにしている。40年患者さんと会話を続けてきたからそのあたりは得意中の得意だ。言葉の壁は心の壁より簡単に乗り越えられる。犬でも以心伝心出来るのだから同じ「人属」だったらもっと簡単だ。
 明日は来日してまだ間もない女性達とフェリーに乗って高松に行く。100年の歴史?本当は知らないが恐らくそれに近いだろう歴史に明日ピリオドが打たれる。その最後の船に乗ろうと思っているが、デッキから落ちそうなくらい人がいれば諦める。日本語ゼロの女性達にそのときの決断をどう伝えようかと思っている。まあ困ったらいつもこの一言で逃げる。アイコム ビット ティーン ベット(ワタシベトナム語 わかりませーん)