崇高

 「人間って、ああ言う時、必ずすぐに起き上がるんですよね」と彼が言うと、僕は「人間って、そんな時、笑うんだよね」と答えた。何か哲学的な話題について話しているように聞こえるかもしれないが、今日大阪から訪ねて来てくれた漢方問屋のセールスが、自転車で転んだときの話だ。何も崇高な話をしているわけではない。
 彼が訪ねて来て僕の目の前の椅子に腰掛けてから、やたら首を倒したり肩を回したりする。首の不都合を抱えている僕にはその仕草で彼が肩辺りに不快感を抱えているなとすぐに分かった。そこで尋ねると2週間前に折りたたみ式自転車に乗っていて、段差を乗り上げることが出来ずに吹っ飛んだらしいのだ。小さなタイヤだから、普段なんでもないくらいの段差が障壁になるらしい。スーパーマンみたいに飛んだと言うからよほどスピードを出していたのだろう。
 場所が大阪だから当然周りに人が一杯いた。そこでとった行動がすぐ起き上がることだったらしい。お腹側の服がかなり破れていたらしいから結構な衝撃だったはずだが、「恥ずかしいから、痛いのにすぐ起き上がりましたわ」状態らしい。そんな時には照れ笑いをするのも人の常だから僕も上記のように返した。すると彼も納得して「そう言えば笑っていました痛いのに。何で笑うんでしょうね」と笑っていた。その笑いこそ答えで所詮「照れ笑い」なのだ。ついでに彼が教えてくれたことがある。「だーれも、助けてくれませんでした」