野菜

 少しは迷ったがやはり送ることにした。さすがに近隣の患者さんの中には農家の方もおられるし、農家の近くに住んでいる人も多いから、主に県外、それも大都市に住んでいる人に絞った。  数日前に、農家の方が大きなビニール袋にキャベツを詰め込んで持ってきてくれた。この辺りのキャベツにしてはかなり小さい。「食べられますか?」と遠慮気味に言ってくれるのは、規格に達せず出荷できなかったからだ。「食べる、食べる」と言って僕は受け取りお礼を言った。食べるを繰り返すほど僕は正直嬉しいのだ。作った人から直接頂くのって理屈抜きでありがたい。幼い頃から農家の方がどのくらい体を酷使して働いているか見てきたから、ありがたみはそうでない(見たことがない)人よりはるかに感じる。僕がいつものように嬉しそうに頂くものだから、その農家の方は「車にまだ沢山積んでいるんじゃけど、食べてもらえる?」と言ってくれた。食べてもらえるではなく食べさせていただくから、僕は軽四トラックのところまで出て行って荷台を物ほしそうに覗いた。すると段ボール箱2個にキャベツが一杯入れられていた。「いるだけ取って!」と言われても全部もらうわけにはいかないので数個だけ残してほとんどをもらった。「もし僕が頂戴と言わなかったらこれどうするの?」と好奇心で尋ねると「近所の牧場の牛に上げる」と言っていた。  「もったいない、もったいない」と言いながら頂いたものをせっせと運んだが、よく考えてみると2つ問題がある。ひとつは牛に食べさすようなものを漢方薬と一緒に送って食べてもらうこと。もう1つは牛が食べるものを横取りしたこと。いつもなら単純に嬉しい、ありがとうを口にするだけなのだが、下手に質問して知ってしまった分居心地が悪い。素人の僕には確かに小さかったがどれもきれいだし、新鮮だったから、きっと喜んでいただけると思ったが、もし荷物を受け取った瞬間、野菜にめっぽう詳しい方がおられたら、規格に達しなかった何かを察してしまうかもしれない。そこでこうして白状してしまい、事情を知って食べていただこうと思ったのだ。  かの国の女性が、母国の来日予備軍に牛窓の施設を選択して欲しくて言った言葉が「近所のお年寄りが野菜をくれる」だった。 それにあやかって僕も牛窓を宣伝したい。「近所の牛が、野菜を譲ってくれる」