語呂合わせ

 僕のかなり親しい人の中で異色の人間がいる。何回か登場してもらっているが、1週間前に5千円貸してと言ってきた。別に理由を教えてもらわなくてもいいのに、携帯電話が壊れたから買いに行くと言っていた。嘗ては機械は無料だったらしいのだが、現在は5万円位するらしい。ところが彼は僕と同じ歳なのに貯金ゼロの人だから、5万円は払えない。途方にくれていたときに助け舟が入って、知人が使わなくなった携帯電話をくれたらしい。機械を既に持っていれば契約だけでよいらしくて、それなら5000円もあればいいと言うことで契約しに行くらしい。「15日には年金が入るから返しに来る」と言っていたが僕は半信半疑だった。  珍しく1日遅れでお金を返しに来た。古びた携帯電話を持っていたが通じるらしい。そんな物がいるのかと思うが、必需品らしい。「今の時代に持っていないもん(者)なんかおるまあ(いないでしょう)」と言うが目の前にいる。そして携帯電話の販売店での攻防を教えてくれた。  「今度の番号は覚えにきい(にくい)。でもこれしかなかったんじゃ。向こうが言う他の番号が気に入らんかったから仕方ねえわ(ないわ)」そんなに拘らなくてもよいと思うが酒と博打で身を滅ぼすだけあって数字には拘るのだろう。「〇〇君、どんな番号があったん?」と尋ねると、4140じゃろ(だろ)2960じゃろ、2342じゃろ、それに0094なんじゃ。「別にそれでもええが(いいじゃない)」と拘らないタイプの僕には抵抗は全くなかった。すると彼は「おえるもんか(だめだよ)俺に酔いを知れじゃし、憎むわだし、兄さん死にじゃし、ワワ苦しいじゃもん」なるほど言われて見ると語呂合わせではそうなる。そもそも語呂合わせすら興味がない僕に彼は続けた。「だから残っとんじゃが(残っているのではないですか)」なるほど、確かにそうだ。誰でも簡単に思いつく語呂合わせだ。他の人が選択しないのも分かる。これらを避けて彼が選んだ数字は語呂合わせも出来ない数字らしくて、「覚えれん(覚えれない)」と言っていた。  僕と同じ年齢で、酒、タバコ、博打に有り金の全てを使い貯金ゼロ。その勇気は相当のものだ。それなのになんで語呂合わせが気になるんじゃ!