記憶

 2日連続で鳥の話題で申し訳ないが、想像しただけで嬉しくなる。  僕が牛窓に帰った40年前は、酪農農家が沢山あった。今でも後継者に恵まれたおうちは牛を飼っているが、そうでないところは廃業した。廃業のほうが圧倒的に多い。後継者と言っても第二世代はほとんど僕と同じくらいの年だから、結構な歳になっている。それでも動物好きの方ばかりだから、エネルギーを動物からもらっているのか皆元気だ。  その中の一人は前島と言う牛窓沖の大きな島で牛を飼っている。昨日その奥さんが買い物に来たときに犬の話から鳶の話になった。代々大型犬ばかり飼っているおうちだが、つい最近、ゴールデンレッドリバーが死んだらしい。当然悲しみにくれていたのだが、最近鳶が牛舎にやってくるようになったそうだ。奥さんがパンをあげると喜んで食べるそうなのだが、その後の説明がなんともうらやましい。「あの子はどんくさいから、パンを投げても空中でようくわえれんのよ」と、ほとんどペット並だ。大空を悠々と旋回するあの鳶を、恐らくこの辺りでは空の生き物の頂点に立つ鳶を「あの子?」羨ましい。前島は結構大きな島だが、集落は点在してほとんどが山と畑だ。小動物も一杯生息しているに違いない。とくに牛を飼っている人の近くは広い畑が開けているはずだ。自然が今だ多く残っているところで、毎日決まって降りてくる鳶もほとんど人間に警戒心を持っていないのかもしれない。  一体いつの記憶か分からないが、小学生かそれ以前だと思うが、僕は家の裏の広場で遊んでいたときに、大空を旋回する鳶を見た。当時は決して珍しいことではなかったはずだが、その時の周りの景色と鳶の飛ぶ様をはっきりと覚えている。幼心に余程かっこよく見えたのだろう。その後鳶など見ることはほとんどなかったが、最近空を舞う鳶をよく見かけるようになった。自然が回復しつつあることを空の上にも感じる。今見えるのは単独飛行だが、そのうち複数の鳶が一度に空を舞う光景が見られたらどんなにすばらしいかと思う。過疎化の裏返しのような光景だが、これはこれでいいのではと思ったりする。