直撃

 瀬戸大橋線が運休になるくらいだから、四国フェリーもかと思ったが、親切な駅員さんが調べてくれて、運行している事が分かった。  丸亀城天守閣あたりを吹く風が尋常ではなかった。風下に向かって立つと持っていかれそうになる。その時ふと頭を掠めた。「瀬戸大橋線は動いているだろうか」と。案の定、風速20メートル以上の風が吹いているから、運休中だとのアナウンスがあった。何時に回復するか分からないと答えられたので、高松までマリンライナーで移動して、フェリーで帰ることにした。  今から考えると、瀬戸大橋が通れないくらいの風だから、波も高いだろうと連想するのが当たり前だ。ただ、なぎの日しか乗らないので、イメージできなかった。ただJRで高松港に着いたときには、沖は白い波しぶきで埋め尽くされていた。  僕らと同じ選択を余儀なくされた人たちが殺到したのだろう、まだ出発の30分も前だというのに乗船が始まっていた。僕は児島駅に車を置いて、電車で瀬戸大橋を渡っているので、フェリーは身一つだ。だからすぐに乗れたが、多くの車が積み残しになり、1時間半埠頭で次の便を待つことになっていた。車の積み残し、船室が一杯になって入れずに、風が吹きすさぶデッキで懸命に足を踏ん張っているような経験は今だ嘗て無い。僕がフェリーを好きになったのは、乗客が少ないと言う点が大きいから、今日の光景は好ましくない。  高松港を出てから程なく、水しぶきを上げていた波の大きさに気がついた。波が船底を叩き、デッキまで響いてくるのだ。横波をかぶってはいけないからだろう、いつもの最短コースとは程遠く、波を正面から受けるように方向を頻繁に変えていた。船がどちらかに傾いているようにも見えた。船の真ん中に立ち両サイドを眺めると、明らかに傾きが違っていた。車の固定が外れたら、車が一方向に偏り転覆するのではないかと思った。  何度も利用しているフェリーだから、救命の浮き輪やボードがどこにあるか知っている。全く泳げない同行のかの国の女性二人だけは何とか助けなければならないと、シミュレーションしていた。  僕1人なら体温を奪われない限り波の上に浮かんでいることは出来るが、大人ふたりをなんとかできるかというと100%どうにもならない。「丸亀おしろ祭り」で僕の好きな「夢幻の会」や「善通寺龍神太鼓」が出るから、2人のかの国の女性と聴きに行ったのだが、そのことに関する後悔が頭をもたげてきた。  恐怖という言葉の一歩手前くらいな気持ちで65分の船旅を終えた。宇野の港が近づいて、島々と接近して走り出しようやく波が収まったときには正直ほっとした。四国の人や頻繁に利用する人みたいに経験がないので、どのくらいの波だったら危ないのか、安全なのか全く知識を持ち合わせていなかった。まさか空高く晴れ上がった日に、急激に発達した低気圧の直撃を受けるとは思わなかった。全くの経験不足を嘆く。