風人

 なるほど、これなら日本人の男性に求婚されるはずだと思った。  今日初めて一緒に行動した3人のかの国の女性達は、時々訪ねる寮で会った女性達だ。職場は違うが、同郷のよしみで時々遊びに来るらしい。  今日藤祭りの重要イベントで行われる和太鼓演奏に誘うために訪ねたのに仕事だと分かってがっかりしているところに3人が入ってきた。折角きれいな藤と和太鼓を楽しむことが出来るのだから僕1人で訪ねるのはもったいない。そこでその3人に打診してみると、丁度休みで、おまけにすることがなかったみたいで、すぐに快諾してくれた。聞けば来日してから必要最低限の行動しかしていなくて、日本の文化にはほとんど触れていない。  和太鼓が国境を超えることは何度も経験しているが、今日もいともたやすく越えてくれた。初めて目にし耳にするものだが期待以上に感激してくれた。今回の女性達は、3人とも日本語がとても達者で、関西のお笑い芸人の司会が分かるみたいで、ほとんどのギャグに反応していた。その上、感動を素直に表すことが出来るみたいで、僕も負けそうな声援を送ってくれていた。彼女達もまた、そうすることで演者にエールを送ることが出来ることを知っていた。「日本人はおとなしい」という感想がそれを物語っている。  島根県から来た和太鼓の演奏者も素晴らしかったが、僕は「風人」がよかった。今まで何回か聴いたことはあるが、全部コンサートホールの遠くからだった。ところが今日は間近で見、聴くことができた。男性も上手だが、女性は、県内では一番上手だと常々思っていた人で、息の整え方や、体の消耗を楽しむかごとくの充実した気力なども感じることが出来て、想像をはるかに越える努力の結晶を見せて、聴かせて頂いた。  こうした具体的な感動まで、初めて一緒に行動をともにした3人と共有できたのだ。日本語をかなり操ることが出来る努力、そして溢れんばかりのユーモア、日本人が忘れがちな謙遜、そして感性。来日してまだそんなに月日が経っていないのに、日本人からプロポーズされるのはよく分かる。ただし、確固とした目的を持って生きている人の美しさが見えない男性にはその資格はない。