地震予知

 思わず熊本市の16日の天気を調べてみた。晴れだった。なんだか信憑性が増してきた。僕は当日前線が近づいてきていて、痛みの病気を持っている人がかなりの確率で起こす症状だと直感的に理解したのだが、目の前の女性二人があまりにも症状の一致で盛り上がったので、少しばかり興味を持った。もちろん薬剤師としてだが。  明日から連休が始まるからだろう、気を使った人たちで若干込んでいた。相談机の正面に2人の女性が腰掛けて僕と話を始めたのだが、視界の向こうには2組が待っているのも分かっていた。ただ、目の前の二人はそれぞれ痛みのトラブルを抱えていて、2人とも普通の人が遭遇するようなレベルではないので、僕は腰を据えて二人の話を聞いていた。2人とももう何度も来てくれている人たちだから、性格もよく分かっている。そんな2人が、「私たちみたいな症状を持っていると避難所には行けない。テレビを見ていてそう思った」と話し合っていた。そしてどちらからともなく「熊本で地震があった夜は、今まで経験したことがないくらい疼いた」と言った。片や首で、片や股関節なのだが、首や股関節を切り離したいくらい辛かったそうだ。  2人はよそ様の不幸で冗談を言うような人ではない。話し方などでもそれが事実だと言うことは明らかだ。ただ、地震で痛みが増幅すると言うことは普通ならありえない。まして遠くの地震で。だから僕はすぐに気圧のせいだと思ったのだ。ところが当日は晴れていたらしいので、否定する材料がなくなった。自分達の体調報告はそっちのけで、当夜の疼き方で盛り上がる二人を見ていて、ひょっとしたら大発見かもしれないと思い始めた。動物が地震の前兆を察知して異様な行動をするのと同じように、人間も傷を持っている人は何か察することが出来るのだろうかと、薬剤師の端くれらしい発想をしてみたのだ。もしこの二人以外に同じような経験をしている人をある程度見つければ、新たな地震予知に道が開ける。薬剤師の端くれ魂に火がついて、そして5分で消えた。  次の患者さんの問診を始めたら忘れてしまった。火がつきやすく消えやすいのは青年期から同じだ。元々火もつかなければ楽なのだが、火だけはついてしまう。こうして僕はありとあらゆるチャンスを失った。