制御不能

 薬局を開けると同時に喉の薬を買いに来た。喉が痛いそうだが、喋る言葉が途切れ途切れで、いかにも息苦しそう。間質性肺炎で治療中なのは知っているが、会う度に呼吸が浅くなっている。いったいどのくらい苦しいのか想像できないが、まさか溺れているほどでもないだろう。ただ、病気の中でもかなりつらい部類に入るのではないだろうか。
 その彼が、「余命1年半と言われた」と教えてくれた。僕より1歳上、と言うことは、僕が同じことを言われた時の心情と、彼のは近いものがあるだろう。そこで僕は急に深刻な顔・・・・・・・にならないのが僕の特徴で、「ほんなら、タバコを止めたん?」と尋ねた。すると彼は「止めるわけないやん」と答えた。答えながらもむせる。「いい度胸しとるな」と感心するとやせこけた顔で笑っていた。
 そこで彼がなぜか急に話題を変えた。「〇〇さんとよくドラッグで会うんやけど、会う度に金を貸してくれって言われるんや」
「それはおえん、〇〇君は絶対お金を返してくれんよ」
「知っとるし、わし、お金が無いから貸してやれんわ。いつもドラッグでワンカップとつまみを買っとるわ」
「〇〇君は2回も法務局に出張しているけど、3回目もそろそろのような気がして心配なんよ。僕の金もまだ返してくれんし。会う火と会う人、金貸してくれって言っているらしいよ」
 片や間質性肺炎、片や寸借詐欺、25歳で牛窓に帰ってからの深い友人?達だが、それぞれ制御不能の動機によって自爆テロを行ったようなものだ。僕にはこのほかにもすでに世を去った個性溢れる制御不能人間の知り合いが幾人かいる。本当にそれでよかったのかと尋ねていたらどのような答えが返ってきていただろう。少なくとも今日の二人は確信犯で、要らぬおせっかいは通用しない。タバコ1箱、ワンカップ1本にこそ友情が宿る。