無味乾燥

 僕が腕時計と携帯電話と夢を持っていないのは周知の事実なのだが、もう一つ持っていないものに日曜日気がついた。  ローカルの店なのか、全国版なのか知らないが、うさぎ屋と言う文房具店がある。文房具しか扱っていないのに、店も駐車場も広くて、いつ行ってもお客さんがたくさんいる。僕が欲しいものがそこにしか売っていないので、時々利用する。ただ僕は必要なもの以外には目も触れないから、用事が済んだらすぐに店を出る。その日も同じような行動を取ってレジに行くと、カードの有無を尋ねられ、カードを持っていないと言うと、なにやら会員になることを勧められた。利用するといっても数ヶ月に一度だし、1000円もあれば手に入るものだから、僕などいいお客にはならないだろうと思っていたら、携帯番号で簡単に登録できると気を使ってくれた。そこで僕が携帯電話を持っていないと言うと、珍しく若すぎない店員さんが、珍しいと言った。普通はその一言でいいと思うのだけれど「どうして持たれないんですか?」と興味深そうに聞いてきた。そこで僕は誰にでも答える言葉をその女性にも返した。「自由を失いたくないんです」すると女性は、接客用語だろうが「いいですねえ」と笑顔で答えた。  その時に気がついた。僕はカードなるものも一切持っていないと。カードなるもので何が出来るのかも知らない。薬局で患者さんの財布の中が結構見えるが、皆さんカードで財布が膨れている。それこそうさぎ屋でもカード入れなるものを売っていた。最早財布とは別にしないと収まりきらないと見た。  僕は買い物は全て現金だし、ポイントは面倒だからいらない。レジで毎回声を掛けられるのがかなりいや。電話は10円玉だし、乗り物は切符だし・・・このくらいしか分からない。おそらくもっともっと使い道は広いのだろうが、これ以上は分からない。不便が必ずしも便利の下流にあるとも思っていないし、便利が不便なのも知っている。カード1枚で何でも出来るような無味乾燥な生活はしたくない。