儲け

 その朝、やっと何年来にも及ぶ僕の地道な努力が実った。 雨上がりだけれど意を決して家を出たのがよかった。体育館脇の、ある公共施設の傍を通りかかったとき、財布らしきものが落ちているのが目に入った。これは何かのご褒美だと思って拾ってみると、カードが一枚だけ入っていた。この時点でアウトだ。僕はカードというものを1枚も持っていないから何に利用するものかさっぱり分からない。昔のテレフォンカードくらいなら景品でもらって持っていたことがあるから分かるが、それ以外は何のためのカードでどの様に使うのか分からない。  失意のうちに、それでも捨てるようなことはせずに、濡れたままポケットに入れ散歩をこなして家に帰った。僕には何の価値がなくても落とした人には大事なものかも知れないから、一応警察に届けようと思った。それでも仕事中に未練たらしく眺めていると、SAFETYCARDと書かれているのを見つけた。それと数桁の数字がボールペンで書かれていた。見つけたと言うよりその二つしか文字はなかった。それと何となくカードが地味だ。だから、その道のプロが拾っても意味がないようなものではないかと思った。そしてSAFETYと言うくらいだから鍵の代わりをするものではないかと考えた。となるとこれは別のその道のプロの手に渡ってはいけないから、出来るだけ早く落とし主に返さないといけないと思った。落ちている場所から考えて、その公共の施設の人のものである可能性が高い。警察に行って拾っただなんて言ったものなら恐らく色々な手続きが必要だろうから、いやそれより僕が疑われそうなので、直接施設に電話した。鈍さで定評のある僕の勘でも時には当たるらしくて、まさに落として途方に暮れていた人が電話に出た。 薬局に取りに来たのは若い女性だった。以前ある会合で一緒になってその働きぶりはよく知っていたから、少しは役に立てたことを嬉しく思ったが、たまには仕事以外で人様の役に立つのもいいものだと思った。こんな偶然でも経済が介在しない所で役に立てたのは儲けものだ。たとえ財布の中に水に濡れたら破れるものや、水に沈むものが入っていなくても。