闊歩

 男性と車に乗ることに果敢に挑戦してくれている女性が、男性とワンルームマンションなんかとても住めないと言った。狭い部屋が一つ、トイレが一つでは、臭いが気になっておちおち暮らすことなんかできないというのだ。本人にとっては少しずつ、僕にとっては順調に改善してきているから、その辺りもクリアしてくれそうなのだが、トラウマがあるらしくまだどうしても越えることが出来ない壁になっている。とは言うものの、車に同乗するときの心の乱れようなども恐らく以前よりはかなり改善しているから、いずれ出来るようになるだろう。  電話で彼女がトイレが一つの家に住むなんてと言ったが、僕が返したのは次のような言葉だ。「トイレが一つの家に住めないと言うけれど、トイレが二つもある豪邸の方が経済的に住めないよ」だ。言った僕も面白かったが、彼女も大きな声で笑ってくれた。  必ず電話で症状を教えてくれる女性だが、少し沈んだ電話で始まり、最後にはこの様に笑いのうちに電話を置くことが出来る。流行りと言えば流行り、地味と言えば地味な趣味を持っているらしくて、およそその事に興味さえ示すことが出来ない僕にとっては、症状以外は未知との遭遇なのだが、遠くの地で懸命に生きている人がいて、縁あって一時の交流が出来ることを幸せに思っている。いつか彼女が望みを叶えてもっと自由に人生と言う道を闊歩してくれることを祈っている。