電話派

 過敏性腸症候群の相談の方で電話派は2割くらいなものだろうか。多くはメール派だ。この方は電話派だから、メール派よりも少しはイメージできるところが多い。 5,6年前に色々なことが重なりおならが我慢できなくなった。そのうち漏れるようになって後は巷言われる症状のオンパレードだ。最初の相談で臭いと言われたり笑われたりすると言っていた。どれだけ毎日が辛いだろうと容易に想像できるが、電話の向こうにいつも僕は善良な女性を想像していた。だからどうしてもおならのことなど気にしないで毎日を充実したものにして欲しいと思った。  実際この方の場合は、他の症状でガスが多く発生していることが分かったから、元々のガスの発生を押さえる処方と、5年も6年も越えることが出来ないがす漏れという壁を超える力、本当は寧ろ逆で脱力なのだが、をつけることが出来る漢方薬を飲んでもらうことにした。「幸せっ!」と言えるような大きな健康おならが出ることも完治には必須条件だ。  この方の場合は、ガスによる不可思議な身体の症状がまず消え、そのうち会話の中で、あれだけハッキリと断言していたがす漏れ症状について、本当かどうか分からないと言い始めた。その頃から、会社で悪く言われることが無くなった。そして最近では、陰口は一切消え、仕事仲間となんと楽しく接することが出来るようになった。これは彼女にとっては革命的な出来事ではないか。仕事仲間という言葉が初めて現実のものになったのではないか。もっとも電話の向こうから伝わってくる善良や素朴から、僕は孤立は自分で作っているだけのものとは最初から分かっていたが、体調の改善に連れて、心まで安らかになって行った。  ほぼがす漏れに関しては自分も完治と認めている。今ではなんであんな考えを持っていたのか不思議みたいだった。僕はこの女性の緩やかではあったけれど確実な回復を、実際の声で伝えてもらった。僕の過敏性腸症候群の考え方や漢方薬の選択が間違いではないことを今回も証明してもらった。「治らないはずがない」単純だけれど、それ以外の言葉は必要ない。