原因

 泣きながら電話をしてきたのか、僕の第一声で泣き出したのか分からないが、最初から泣いていた。時々、思い出したように僕の漢方薬が必要になる女性だが、高校生くらいから知っている。
 その女性が症状を教えてくれたのだが、その症状が出るには必ず原因がある。もう長い付き合いだから正直に何でも言ってくれる。今日も素直に教えてくれた。何でも付き合っている彼氏が、結婚するには彼女がパートだということが支障になると言ったらしいのだ。僕がすぐに思ったのは彼の経済力だ。「彼の給料は少ないの?」と尋ねた。すると数字まで分からないが堅い仕事だと言っていた。安定した仕事らしい。となるとなんなのだ。彼が彼女に言ったことは、僕の発想の中には100%無い価値観だから想像するのは難しいが、いくつかは思いつくこともある。プライドがめちゃめちゃ高い。金に執着が強い。女性の稼ぎをあてにする。自分の金を奥さんには渡さない。いやいや分からない。でもどうでもいい。
 「その男メチャメチャハンサムなの。背が高くて格好いいの?そう、違うんだ。それなら不細工でケチか?良かったじゃないの、ラッキー。自分、結婚してから今と同じようなことを言われて耐えられるの?耐えれんじゃろう。今でも泣いているんだから、結婚してたら悲劇よ。結婚前に本性が分かって幸運!喜べ!。次、探せ、次を」
 電話を切る頃にはいつものように礼儀正しいかわいい子に戻った。僕にはこうした大切な子がいて、少しばかりお役に立てる。多くの人間を観察し、多くの人間の健康を取り戻すお手伝いをさせてもらったおかげで、心身ともに落ち込んだ人に笑顔を取り戻してあげることが出来る。動物としての多くを既に失った僕には若い人達はまぶしいほど輝いて見える。少なくとも自分がそういった輝きを放つことが出来た時代では気づかなかった輝きに気がつく。太陽の暖かさや、鳥のさえずりや、餌を運ぶ蟻の行列や、入江を泳ぐぼらの大群や、畑に正座した白菜や、そしてこの子達、全て輝き、いとおしい。