彼女が首にならないか心配だ。 今日、久しぶりに豪華な結婚式に出席した。最初からこれはちょっと違うなと思ったので、身内の人に今日の結婚式は1億円くらいかかるのではないのと尋ねた。もしそうなら、式を盛り下げないように上品に振る舞わないといけないから。僕のせいで破談になったら申し訳ない。  何が豪華なと言って、何もかも豪華だった。僕ならこれも必要ないあれも必要ないというオプションが全て残っていた。ありとあらゆるサービスや企画が延々と続けられた。付いていくのがやっとで、訳も分からず手ばかり叩いていた。そこにはまるで観客の僕がいた。  彼女は僕たちのテーブル専属の若い女性だった。彼女たちの職種をどう呼ぶのか知らない。テーブルが沢山あったから係りの女性も沢山いたが、いずれ劣らぬさわやかな女性ばかりで、常に笑顔を絶やさなかった。歩いているときも笑顔だから、かなり訓練されているように感じた。彼女たちはまるで兵士のように訓練されていた。さしずめ笑顔の兵士だ。登場するときも、退場するときも深々と礼をし、一糸乱れぬサービスぶりは舞台の上で繰り広げられる演劇にも似ていた。  僕は出てくる料理をどの様に食べていいのかほとんど分からなかった。勿論胃袋に納めてしまえばいいのだが、一杯並んでいるフォークやナイフはもちろんのこと、香辛料は何をかけていいのか、どの様にかけていいのか、その都度手を挙げて彼女に質問しながら、「正しく」頂いた。極めつけはデザートの器で、お菓子で出来ているとは気がつかなかった。ひどく粗雑な器だなと思ったのだが、隣に座っていた甥がその器を食べ出したことで分かった。その隣にあったチョコレートみたいな器は噛んだら歯茎から血が出たから、本物の焼き物だった。出来たら説明書を添えて欲しいものだ。「噛んだら危険」と。  耳にイヤフォーンをつけた男性スタッフや、進行係のスタッフなど総勢20人はいたと思う。何かをしてくれる度に、又何かの展開の度に彼らがおじきをするので、それに返すお辞儀で疲れた。僕はお辞儀をされると必ず返さないと気がすまないし、跪かれたりしたら余計にお礼を言わないと耐えられないので、今日、式の間に何回頭を下げただろう。慣れない正装もどきの上に礼ばっかりでどっと疲れた。  彼女に貴女は僕のテーブルを担当して運が悪かったねと言った。慣れない席なので僕の質問がまるで冗談のように聞こえたかもしれないが、その都度丁寧に答えてくれた。訓練されたとおりの作法も、最後には段々和んできて、本来持っているだろう性格と相まってとても気持ちの良い時間を過ごさせてもらった。彼女の職業を越えた笑い顔や親近感が上司の目に留まったら、評価が下がってしまうだろうかと心配したから、アンケートに一杯褒め言葉を並べてきた。もっとも、こんなに豪華な結婚式に呼ばれることはもう無いから二度と会うことはないだろうけれど。  どうやら首を心配した方がいいのは僕の方かもしれない。