閑谷学校

 岡山県人を自認はしていないが、この年齢になって初めて「旧閑谷学校」に行った。小学生などの合宿に使われる所と言うイメージが強かったから、訪ねて見て驚きだった。  通称で旧と言うのは使われないから省いて閑谷学校という。その閑谷学校についての情報はインターネットの世界に任せるが、国道2号線から外れて少しばかり北上したところにこんな静寂の空間があるんだと、本当にタイムスリップしそうな感覚に襲われた。300年前に作られたものがそのまま残っているのではないだろうが、まるで映画の中のセットのように、僕らを300年前に遡らせる。周囲を山に囲まれ、それでいて学び舎を建てるだけの平地が用意されている。俗世間とは隔離された状態で、多くの少年達が学んだのだろう。学びにとってはうってつけの場所だったに違いない。昨日は特別暖かく、囲まれた山から覗く空は青く、木々は空に向かってまっすぐに伸びていた。隔離された地で時間もまた独自のスピードで流れる場所のように思えた。  地形も時間も、隔離されているようなのに、多くの人が訪れていた。そのことにも少し驚いた。車で1時間もかからない僕が、初めて訪れたなんて、疎いと言うか、合わないと言うか、場違いと言うか・・・この歳になって初めて訪れる資格を得たような気がした。もっと若い頃なら、何の感動も受けなかっただろうが、今は学び少なく過ごした青春期を痛恨の思いで回顧する日々だから、江戸時代にこの広間に子供たちが書物を広げていた光景を想像出来る。  予備知識なしで突然訪ね、後知識なしで帰ってきたが、一種独特な空間?世界?ははっきりと覚えている。何処へ行くのも手ぶらな僕には、感性と言う名の色褪せないフィルムだけが頼りだ。