砂漠

 一瞬、自分がどこにいるか分からなかった。  今日は妻が教会関係の人と一緒に広島に行ったから、昼食も夕食も息子と「てんでこにしよう」と言っていた。昼食はいつものうどん屋さんですましたから問題はなかったが、さてスーパーの中に入ってから夕食の手当をするのが大変だった。一言で言えばレトルト名人の息子に夕食を頼めば良かった。店内を物色しながら後悔した。  まず手っ取り早く弁当でも買えばいいと思ったのだが、どうも揚げ物が時間が経ちすぎているような気がして手が出なかった。どれもギトギトギッチャンに見えてしまったのだ。揚げたてでないと油が酸化して僕みたいな年齢の人間には胆のうは勿論血管にまでこたえそうに見えた。結局手が出なかった。電気釜にご飯が残っていたような気がしたから惣菜でもいいかとそのコーナーに回ると、10回のうち9回は買ってしまうマカロニサラダが目に入った。野菜が少ないなと思いながら、しかし、葉っぱばかりのサラダの値段と見比べて、少しは手間をかけているように思えたのでいつものように買った。肉コーナーは素通りだ。料理しなければならないからいつも選択肢の中にない。鮮魚コーナーは以前なら魅力的なコーナーだったが、あれ以来、どこでとれたのかを見てはため息をつくだけで、EPAやDHAの供給も出来ない始末だ。ただ、未だ外国にはあまり届いていないかと思いチリ産のウニを買った。ヨーロッパでは太平洋産のマグロの放射能濃度を調べているが、そして警戒しているが、当事者のこの国ではほとんどノーマークだ。  ウニとマカロニでは何となく量が少ないと思えたので、ラーメンを買った。結局好きな物を、それも血糖値を上げる粉ものを集めただけで、何ら哲学はない。独り者でなくて良かったと思う。もしそうなら、延々と今日買った3点で暮らしているかもしれない。食べたい物だけ食べて命を削りまくっていただろう。 結局、これだけのことをするために30分以上スーパーの中を放浪したと思う。自分でも何でこんなに非生産的なことをしているのか分からなくなった。そしてふと気づけば「あれ、ここはどこだったっけ」状態だった。  買い物嫌い、料理嫌いの僕にとって、今日のスーパーの中は砂漠みたいなものだった。いや、僕の心の中が砂漠みたいだったのかな。