信頼

 隣の岡山市から、どんな些細なトラブルでもわざわざやってきてくれる方が夕方電話をしてきた。お孫さんが口内炎で長い間困っていると言う。口内炎で長い間というのはちょっとぴんと来なかったが、可愛い孫のことだから表現が少し大袈裟になったのかもしれない。勿論いくつもの口内炎を繰り返し出す人もいるから事実かもしれないが。  いつもなら薬を作っておいてと言うのが常なのだが、今日はどうしたらいいでしょうかと変わった質問の仕方をした。電話の向こうが騒がしいからおかしいなと思っていたら、なんと東京から電話をしてきていた。東京にいるのなら僕には手が出ない。だからある薬の名前を言ってそれを求めるように言った。ちょっとマニアックな薬だが花の都大東京だから当然どこかで売っているだろう。僕の薬局では口内炎だけでなく、色々なトラブルの人が服用しているから目立つ場所に陳列していて見たことがある人は多いだろう。その女性も名前を言っただけですぐに分かったみたいだが「先生、そんな薬、東京にはなかろう」と即答した。「東京にないものはないでしょう」と答えると「なかろう」と素っ気ない。確かに100軒探して1軒の割合くらいだから余程運が良くないと難しいかもしれない。そこで次善の策としてある軟膏を紹介した。すると「それも東京にはなかろう」と同じような返事をしてきた。僕も「東京にないものはないでしょう」と同じ言葉を繰り返した。  かなりの確率で手にはいるようなものを紹介したので、女性は納得して電話を切ってくれたが、薬剤師冥利に尽きる。こんな田舎の薬局を花の都大東京の薬局より信頼してくれるのだから。どこを取っても劣るはずなのに何故か信頼してくれる。自分でも不思議だ。強いて言うならば、この端整な顔立ちと溢れんばかりの品の良さしか優るものはないのだ