安土桃山時代

 あまり、よその薬局では見かけない光景かもしれない。古い薬局だからこその光景かもしれないが、面白いから披露する。面白いのはひょっとしたらそんな要望をする患者さんのほうかもしれないが。  薬局を開ける時間が待てなかったのだろう9時前に電話がかかってきた。「この前作ってもらったインフルエンザの漢方薬がよく効いたので又作って!」つい2週間前に作って飲んでもらったのを、又飲みたいと言う。2週間前は、お医者さんで治療を受けていたがあまり改善しないから頼まれて作った。インフルエンザの後遺症だろうか、不快な日々を過ごしていたからそのための漢方薬を作った。2週間後に、又風邪を引いたみたいだが、インフルエンザかどうかは分からない。漢方薬は症状がすべてだからインフルエンザかどうかなど関係ない。症状を確かめてから「はい、インフルエンザの漢方薬をことづける」と快諾した。  この方は開店まで待っていてくれたのだろう。シャッターを上げるとすぐに入ってきた。「この前、ノロウイルス漢方薬を1日飲んだだけでよく効いたので、今日はインフルエンザの薬をください」そんなものあるのかと一瞬迷ったが、高熱と悪寒と関節痛があるらしいから、薬局製剤の栄町ヤマト薬局感冒3号と漢方薬を出した。すると「頭がいいですね」とえらく感心して褒めてくれた。今年紹介されて僕の薬局を利用してくれるようになった人だが、あまり僕のような薬局を利用したことがないらしい。だから、要望を出すと薬を作ってくれるなんて経験がないのだ。薬局製剤の製造許可を取っているところなら当たり前の光景なのだが、ドラッグや調剤薬局しか知らない人には異様な光景だろう。だから今だ経験したことがない褒め言葉を掛けてくれたのだと思う。ただなんとなく年下の女性だから違和感はあったが。むしろ僕にとっては普段しばしば掛けてもらっている言葉のほうがしっくり来る。例えば「かっこいい」とか「スタイルがいい」とか「どうでもいい」とか・・・  こちらも電話での注文。お孫さんが高熱を出したから「インフルエンザを予防する漢方薬を又作ってください」この方は毎年この種の漢方薬を作っている。だいたい12月から2月一杯飲む。呼吸器系に少しハンディーを自分で感じているからナーバスなのだろう。でも実際に生薬の抗ウイルス作用を期待して飲むとかかりにくい。その方がインフルエンザにかかったのを聞いたことがない。  大都会で1人暮らしている青年は、あるトラブルで現代薬が飲めない。だからそれこそインフルエンザに漢方薬で対処すべき常に風邪薬を持ってもらっている。切らさないように注文が入る。おかしいと思ったらすぐに飲むそうだ。もう何年も元気で暮らしている。  今の時代に薬局独自でインフルエンザに対処するのは珍しいと思う。タミフル他何種類も薬が出来たから。ただ、それらの薬の効果がそのかかる金額くらいあるのかといわれれば僕は疑問だ。熱が下がるのが1日くらい早いだけではないのか。それなら僕の薬を飲んで寝ているのとどちらが早いのだろう。恐らく遜色ないのではないか。僕はヤマト薬局にインフルエンザなどでやってくる兵に「室町時代でも治していたんだから、簡単だわ」と言うことにしている。安土桃山時代でもインフルエンザの患者は毎年出て、毎年多くの人が治していたんだ。今の時代に馬鹿高い薬を使わなくても、治すことができても不思議ではない。人間が持っている自然治癒力を目一杯導き出せば自然に治るのが当たり前だ。インフルエンザごときで製薬忌業に大もうけさせる必要はない。製薬忌業が儲かれば、政治屋が儲かり、厄人が儲かるのか。寝ていれば自然治癒するものに高額の税金を費やす必要はない。薬のレベルより、インフルエンザでも休めないのが問題なのだ。