特異日

 1年の内、数日だけとても家族だけでは応対しきれない特異日がある。今日がその日だったのだろうが、一組だけ折角僕が電話に出れたのに話の途中で「担当の方に替わって貰えますか」と言われた。電話を受けたときから名前がぴんと来なかったし、話の内容も理解できなかったから、替わってくれと言うのは当然なのだが、それが嬉しいような寂しいような。でも当然嬉しいことなのだ。まさにそのために今日も頑張っているのだから。  1ヶ月前、或るトラブルのために県内だが結構遠くの方が相談してくれた。最初から僕の薬局を決め打ちで相談してくださったのか、あるいはいくつか廻って最終的にたどり着いてくれたのか分からないが、娘が相談を受けた。勿論病院で治療を受けているがはかばかしくない。そのトラブルに対処できる漢方薬を作ることが出来る薬局が他に県内にあるのかどうか分からないが、僕の薬局には自家製剤を作る権利を与えれられているから、そして対処の仕方を僕の先生に昔教えて頂いていたから、娘も頭をひねることなく処方を決めることが出来たみたいだ。そして幸運にもよくその漢方薬が効いてくれているから、電話をとったのがおじさんだったからその方も戸惑ったかもしれない。  田舎の、しかも昔ながらの何でも屋の薬局なのだが、結構病院の薬を作るのが忙しくて娘夫婦はそちらにかなりの時間をとられている。相談者を応対するのは未だ僕が多くて、なかなか受け持ってもらえない。狭い薬局だからどんな話をしてどんな処方に落ち着くのかほとんどは耳に入っているだろうが、一番大切なことは問診力だから実践を伴わなければなかなか自分のものにするのは難しい。今日の電話の方みたいにハッキリと指名してくだされば、鍛えられる機会は増えるのだが。  娘は初めて薬を作った直後も、何日か経った後も、その方のことを心配していたが、経過が良くてとても喜んでいた。こうした方達の縁で娘も少しずつ鍛えられるのだろう。嘗ての僕がそうだったように。