問診

 僕の薬局の場合、日常業務のありふれた手順だから別に心配する必要はないが、もしよその薬局やドラッグだったら一体どう対応されていたのだろうかとそちらの方が気になる。 ある女性が、お母さんの相談にやってきた。実家のお母さんが電話をしてきて逆流性胃腸炎だと思うから、薬をもらって来てと言っているらしい。自分でインターネットで検索したら、不快な症状がほとんど一致していたらしい。その一致している項目を出来るだけ覚えていて僕に教えようとしたのだろう、5,6個の症状を列挙してくれた。なるほどほとんどが逆流性食道炎の代表的な症状だ。ところが僕は何か腑に落ちなかった。どうも決定的な、これがなければおかしいという症状がすっぽりと欠落していたのだ。だから僕は直接お母さんと話をさせてくれるように頼んだ。すると女性は快く自分の携帯電話でお母さんを呼びだしてくれた。こうなればもう直接来店していないことのハンディはない。いくつかの問診で、決して逆流性食道炎ではないことが分かったし、おまけに、夫婦仲の悪さが原因のストレス症状だと分かった。胃が悪いことなど僕には考えられなかった。僕の見立てを言うと電話の向こうでとても喜んでいた。結局僕はストレスが原因で起こる不定愁訴漢方薬をお嬢さんにことづけた。 若いお父さんが、1歳の子供の目薬を下さいと言ってやって来た。それ以上は何も話さずに僕が薬を出してくれるのを待っている。彼にとっては恐らく今までそれでことが足りていたのだろう。だけど僕はたったそれだけの情報で目薬を出す勇気はない。当然いつものように問診をして結膜炎の目薬を出した。OTCには適した目薬がないので、医療用の目薬を出した。お父さんは驚いていたが、やがて感謝の言葉を残して帰っていった。ひょっとしたら子供用○○○○などを期待していたのだろうか。効きもせず間違えば副作用を起こしそうなものを出す勇気はない。  昔ながらというか、当たり前というか、おおむねこの様な応対を1日中行っている。医者の下請けではなく、直接役に立つことが出来るから結構毎日が楽しい。ただこうした薬局が次々と廃業していって、近隣の同業者と言ってももう何十キロ車で走っても見つけられないのだ。もっともっと無くなっていけば、古くて新しいなどと呼ばれる薬局になれるかもしれない。経営している僕は古くて古いのだけれど。