メルヴェールリゾート牛窓

 「こんな環境だったら、私、何もいらへんわ。1日中横になっているだけで幸せ」と、パンフレットを見ただけでその女性は言った。本物を見たらどんな言葉が飛び出すのかと思われるほどの褒め言葉だったが、都会に住む人にとっては心が洗われる空間なのかもしれない。当初から言えば値段が1000万円近く下がっているから、「安いわ、安いわ」の連発で、このあたりも都会の人にとっては驚きなのかもしれない。  とは言っても僕には所詮高嶺の花だから、その下から散歩がてらに羨望の眼差しで見上げるだけだが、残り少なくなった空き室が気になる。全部が埋まって牛窓に永住する人や週末に通ってくる人が増えることを願っている。出来たら善良な人達で埋まり、善良な人達がこの町を支え、又この町の人に支えられて欲しい。 一度知り合いに同行して最上階の部屋を見せてもらったことがあるが、眺望はそれこそ地元の人間にとっても全く別世界で、ここから見る景色だけは「日本のエーゲ海」と唄っても許されると思った。毎日その様な景色を見ながら暮らせば、人と無駄に争ったり、競ったりしなくなるかもしれない。交換神経を全開して頑張り、そして身を削っている下界こそが自然の流れの中で明らかに異常だと気づくことが出来るかもしれない。いつか気づいて、もうこれくらいにしようと己に語りかけなければならない、そんな気になれる場所かもしれない。  ただ残念なことに相変わらず僕は、犬の散歩にかこつけて、見上げるだけの日々が続いている。皆既日食も、金星が太陽の中を通過する陰も見上げなかったのに、何故かあのマンションの下に立つと見上げてしまう。まあ見下すよりはいいか・・・。