脱皮

 「快感でした」などと、恐らく何年も、ひょっとしたら何十年も感想を述べることは出来なかったのではないかと思う。相談を受けた主なる訴えの大きなテーマが僅か1ヶ月で解決したことになる。 過敏性腸症候群の方の多くは、会議などは大の苦手だ。静かな所に留まらなければならない苦痛もあるし、そもそも人前で発表するなんてのはもってのほかだ。この方も、心臓がバクバクし、顔が熱くなり、汗びっしょりになると言っていた。ところが最近出席した会議では、何とどの症状も起こらずに淀みなく発表できたらしい。その感想が「快感」と言う表現に現れた。  過敏性腸症候群の、ある一つの典型的な性格的特徴に「恥ずかしがり屋の目立ちたがり屋」ってのがある。僕がお世話した700人以上の中で結構な割合でいると思う。この種類に属する人達は本来、結構能力が高くて、自意識がまだ未発達な年頃では大いに活躍していた人が多い。ところが青春前期辺りで、ふとした切っ掛けで自意識に目覚め、ナルシシズムが洪水の如く押し寄せてきたときに、その圧力が自分自身に向いてしまうことがある。その結果、完全を目指してしまい、完全を装ってしまい、人の目ばかりが気になり青春の落とし穴に落ちてしまう。その上この種の人達は、自分のハンディーを公言できないから、いつまでも苦しむことになる。折角の能力がその日から封印されてしまい、やりたいことや出来ることを横目に悶々と暮らすことになる。まるで生まれ変わったように非生産的な本来の自分とはまるで別人の生き方を自分自身で選択する。 僕はそうしたもったいない人達の役に立ちたい。たかがお腹くらいで青春を、そしてその後の人生を無駄にして欲しくない。たかがこの顔で、たかがこの頭で、たかがこの程度の体調で、たかがお腹程度で悩んでいる人が越えることが出来ない壁を越えるようにしてあげたい。  声しか知らない女性の脱皮が、たかが福山雅治に似ているだけの薬剤師のモチベーションをあげてくれる。