「よく見る光景だけど、ペットに芸をしつけているんじゃないんだから」笑いながらそう僕は答えた。  又新しい介護の極意を教えてもらった。牛窓の火事で亡くなった方の様子を教えてあげたら、彼もやはり火の元が一番心配らしくて、ガスも灯油も一切使っていないらしい。全て電気器具でまかなっているのだが、ただ電気だから火事を出さないと言うこともないので、使い方を丁寧に痴呆の母親に教えているらしい。使い方と言うよりも使わない方と言ったほいうがいいのかもしれないが。  例えばストーブなども自分で点けて暖をとろうとするらしいのだが、出かけて不在になる彼にとっては心配だ。寧ろ暖を電気ストーブでとってもらわない方がいい。だから出かけるときには、布団の中にくるまって暖かくして寝ていてもらった方がいいのだ。そこで彼は、自分が布団に入って暖まる格好を実演して、その真似を母親にしてもらうらしい。そして母親が布団にくるまり、同じような格好が出来たらおもむろにポケットからあめ玉を一つとりだし、お母さんの口に入れてあげるらしいのだ。その様子を身振り手ぶりで教えてくれるが、お母さんが犬か猫、いや猿か馬か・・・・いや何でもいい、餌が欲しくて芸をする動物に見えた。彼は毎日10個くらいあめ玉をポケットに入れているらしいが、毎日補充しているとのことだった。 何かが出来る度に大きな声で褒めてあげてあめ玉を一つ口の中に入れる。彼も僕と年齢が近く、母親同士も年齢が近いせいで、他人事には思えない。まるで幼子のようにあめ玉をもらっているだろう姿が母と重なり悲しくなる。僕達は大声で笑いながら話すが、本当はやるせなさをお互い隠したがっているのかもしれない。