舞台

 宮城道雄という名を知ったのは中学校の音楽の授業でだろう。間違っているかもしれないが「春の海」と言う琴の為の曲を作った人だと思う。何十年前の記憶だから全く定かではない。 そんな名前を意外な人から聞いた。来週と再来週、続けて広島に行かなければならないが、その時に訪ねる施設への行き方を、偶然漢方薬の注文で電話をくれた広島在住の女性に尋ねた。するとその施設の隣の音楽大学へ通っていたらしいのだ。残念ながら過敏性腸症候群で中退したらしいが、音楽だけは続けていて、今度岡山で行われるコンサートに出演するらしい。専門がなんと古式ゆかしい琴で、マニアックな上、岡山に知り合いがいないから有料の入場券を無料で10枚送るというのだ。 今ではかなり過敏性腸症候群を克服してくれているから、舞台に立てるが、以前なら恐らく躊躇っていただろう。学生時代に僕を知っていてくれたらきっと卒業してもらえたと思うが、過去を振り返っても仕方ない。寧ろ県外の舞台に立てる彼女を喜んであげればいい。  会場が大きなホールだから、どの人が彼女か分からないが、是非聴きに行こうと思う。花束を持って会いに行く柄でもないし、札束を持って会いに行くほど経済的に恵まれてもいないし、どうも勝手が分からない。和服姿で恐らく演奏するだろうから、聴き手もやはり紋付き袴か。  これが完治への大舞台になることを祈っている。