土産

 とんでもない事件が報じられた夜に本来は書こうとしていた内容だ。ただ余りにもタイミングが悪すぎて躊躇っていた。 あの事件の前の日に、二人の女性がお土産を手に、旅行に行くことが出来た礼を言いに来た。旅行に行けただけでお礼に来るのも大袈裟だと感じる人も多いだろうが、二人にとっては快挙なのだ。姑や舅との確執が強いある町に住む二人は、御多分に漏れずその渦中にいた。性格的に勝つことが出来ない二人は、心ばかりか体まで傷めていた。そう言った症状に僕の漢方薬が貢献できたから、二人はご主人と共に海外旅行に出かけた。行く間際まで心配していたが、お土産話に話を咲かせる二人は幸せ一杯の表情で、又自信もつけて帰ってきてくれた。 二人が帰って2日目に例の事件が起きたのだから、危ないところだった。恐らくあの繁華街も散策したに違いないし、夜が更けるまで楽しんだと言うから、どこから見ても日本人という二人に災難が襲っていた可能性はある。ただ、現地の風光明媚な景色を壊さないように、水着にだけはならないように、折角美しいものを見に来ている人達に醜いものは見せないようにだけは何度も繰り返し言っていたから、大通りを闊歩するようなことはなかったと思うのだが。  さすがベテラン母さんらしく、僕のいつもの服装をよく観察してくれていて、お土産はチョコレートとTシャツだった。チョコレートは漢方薬が出来るのを待ってくれる人達にも食べて頂いて、とても喜ばれた。Tシャツは、年中僕の必需品だから有り難い。とくに新しいのを着るなんて数年に一度だから、何となく照れくさい。ただ、アメリカ人に合わせているのか、柄は派手だし、とにかく大きい。これでL寸かと思うくらいだが、ほとんど日本人にはLLだ。こぼれんばかりの笑顔で楽しそうに土産話をしてくれた彼女たちの想い出も又僕にはLLに思えた。