恐らく僕が小学生か、ひょっとしたらそれ以前だったかもしれないから、江戸時代だと思うが、いや安土桃山時代かな、三橋三智也という歌手がいて、「鳶がひゅるると輪を描いた・・・」と歌っていた。我ながら良く覚えていると思うが、幼心に歌詞が余程印象的だったのだろう。まさにその歌詞の通りの光景を昨日の朝目撃した。 テニスコートの中を周回していて、何かいつもと違う鳥の動きを感じた。カラスの鳴き声がけたたましかったのに加えて、カラスを少し大きくしたような鳥が羽ばたきもせず悠々と風に乗っていた。例えばカラスにしてもサギにしても、懸命に羽ばたきをしてある方向を目指して飛んでいるものなのだが、その鳥は羽ばたきをせず大きく輪を描きながら次第に上昇していった。その優雅さに僕は目を奪われ、例えば歩く場所によっては後ろ向きになって見失う恐れがあったから、後ずさりしながら歩いたりした。 その鳥はいったん上昇した後、ゆっくりと又輪を描きながらテニスコートすれすれまで降りてきた。人間とこんなに接近することをいとわないのかと驚いたが、近くで見られたことが嬉しかった。獲物でも見つけたのかと思いその瞬間を待っていたが、結局地面に降りることはしなかった。そして又例の、上昇気流を大きく広げた羽で掴んでの旋回を始めて、どんどん高いところまで上っていった。一体どのくらいの高さまで上がっていくのかと思い見続けていたが、結局は見えなくなった。とんでもない高さまで飛ぶことが出来るのだと感心した。 実はもう一つ嬉しいことがあった。鳶を目で追っている間に、近くでちゅんちゅんと懐かしい鳴き声が頻繁にしていた。気がつけば何ヶ月も見なかったすずめたちが帰ってきていたのだ。それも何故か丸々太って。日本中でスズメが減っていると聞いていたし、実際に会うことが少なかったので心配していたが、結構沢山の集団で遊んでいた。  別に鳥に興味があるわけではないが、遭遇すれば自然の象徴みたいな姿にほっとする。人間は自分たちが作り出した不自然な環境に今逆襲されている。不細工な生き様を晒している人間どもが彼らにはどう映っているだろう。