定番

 僕にとって赤穂市は第九の街だ。昔、子供会を引率して海浜公園という施設に行ったことはあるが、それ以外は第九を聴くためだけの街だ。恐らく車で駆け抜ければ10分もあれば中心街は抜けられるのではないかと言うくらいの小都市だが、その小ささがなんとも言えぬいい。1度か2度訪ねれば、もうほとんど征服したようなものだ。ほとんど自由に行動できる。  牛窓から車で1時間くらいの距離で、兵庫県に入ってから初めてのそれなりの街と言うところだろう。そこからわざわざヤマト薬局特製の紫雲膏を取りに来てくれた女性がいた。この距離を来てくれたことも嬉しかったが、お楽しみのコースを一つ教えてくれた。地元の人だからこその情報だと思うが、いずれ訪ねることがかなうかかなわないかは別にして楽しそうに話してくれたのがとても印象的だった。職業柄多くの人と話をし、最近は県外、それこそ日本中の人と話やメールをすることが多いが、意外と我が町やわが県のお楽しみスポットを知らないのだ。自分の土地や県については謙遜かもしれないが、「これと言うところはない」と言う定番の答えが返ってくることが多い。よそ者からしたら考えられないような答えだが、意外と住むだけの街、買い物だけの街も多いのかもしれない。 御多分に漏れず僕も自分の町のことを尋ねられると同じ答えを返すかもしれないが、来訪者曰く「心が安まる風景」らしい。何処か特別なスポットがあるわけではないが、全体の醸し出す雰囲気が温暖な気候の助けを借りてそう言わしめるのかもしれない。照れや謙遜や自嘲をミックスして、うつむき加減で僕はその言葉を聞いているが。