遺伝子

 理由がよくわかった。2年かかって答を得た。最近赤穂からわざわざ漢方薬をとりに来てくれる御夫婦がヒントを、そして答をくれた。  もう何年も前に偶然新聞折込のチラシで、赤穂市での第九のコンサートを知った。何を思ったのか僕は妻を誘ってコンサートに出かけた。第九は小学校か中学校時代に授業で歌って知っているだけで、特段好きという事もなかった。ところが、いざ聴いてみると、それはそれは感動した。合唱は勿論だが演奏もすばらしく、そこから病み付きになった。その後2回赤穂の第九を聴きに行ったが、去年中止を知った。何の理由かわからなかったが、今年に期待していた。だからハーモニーホールのホームページをしばしば点検して、楽しみに待っていた。  ところが、今だホームページに第九の告知は登場しない。この時期に団員募集の告知も出ていないなら12月のコンサートの開催は無理だ。今年もないのだろう。赤穂は牛窓から東に1時間の兵庫県の街だ。赤穂線の起点の街だし、赤穂浪士で有名だ。漢方薬をとりに来た時に夫婦に尋ねた。赤穂でぜひ訪ねたらいいところは何処ですかと。すると夫婦はしばし黙り込んだ。そしてやっと口を開いたと思ったら「何処もないなあ」これは意外だった。確かに地元の人は地元に対しておおむね評価は低い。ただ牛窓なんかに比べたら、色々なものが備わっている印象がある。だから何かお勧めくらいは口にして欲しかったが、ないみたいだ。「人口が5万をきったからねえ」と奥さんが口に出した瞬間、僕は何故赤穂で第九のコンサートが行われなくなったか分かった。正直人口が5万に満たない街で第九の合唱団を集めるのは無理だ。おそらくそうした理由で中止になったのだと思う。  そうしてみると今までよく頑張ってきたなと思う。大きな街ではないから、市内を散策するのも簡単で気持ちよく、コンサートとともに楽しみにしていたが、かなわぬようになった。惜しいというより今まで本当にご苦労様とお礼を言いたい気分だ。街を形作る最低のものは全て整っていて、なおかつ広い空と緑の山、海の青が揃った気持ちのよい街だった。これからは何を理由に訪ねればいいのかわからないが、赤穂線山陽本線の乗り換えだけの街では気の毒だ。文化的な営みが盛んな街だから是非その遺伝子だけは受け継いでいって欲しいと思う。