ここまでつながると不思議な縁も不思議ではなくなる。自分の力以上のものを感じるし、家族に感謝だ。ただ、法律的な障壁があるから乗り越えられるかどうかは分からないが、第一歩は踏み出せた。
 隣地の持ち主は、親から相続して牛窓にはいない。幸い牛窓に近い岡山市内に住んでいることが分かったから訪ねた。
 牛窓によく似た港のすぐそばに家があった。辺りは規模の大きい田んぼが広がっていて、どのお家も大きかった。経済的には恵まれている地域だと思う。また恐らく牛窓に似た田舎の風景、いや牛窓なんかよりもっとのどかな印象を受けたから、暮らしている人達もまたいい人が多いのではないかと勝手に想像した。
 玄関は開いていて、僕が庭に入ったのがわかったのか家から女性が出てきてくれた。僕より少し年上のように思えた。僕は大和と言う苗字だけ名乗って、突然訪れた理由を話した。すると女性は私では判断できないと言う理由で、ご主人にすぐ帰るように電話をしてくれた。ほんの少し前に畑を見に出かけたらしい。
 ご主人を待つ5分くらいの間に女性と話をしたが、僕の名字でピンと来たのか「牛窓で大和さんと言われたら、薬局の方ですか?」と言った。そして最初の縁を聞かされた。
 女性は牛窓にいたころ、何度も父が当時やっていた薬局に買い物に来てくれていたらしい。優しい人だったと懐かしんでくれた。そして僕の姉も覚えていて、1級下らしい。当時は生徒が300人以上いたと思うが学年が異なっているのによく知っていてくれたと思う。これが2番目の縁。
 3番目の縁は、畑から戻ってきた主人の顔を見て、かつて漢方薬を取りに来てくれていた方だとわかった。何と初めて会う人ではなかったのだ。土地の名義人が奥さんの名前だからわからなかった。
 そして最後の縁は、その男性が何と息子の患者さんで、とても息子を褒めてくれた。
 これだけ深い縁があれば問題の土地のことは本当にスムーズに楽しく譲ってもらえる結論に行きついた。
 前日まではどのようにお願いしようか、金額はどの程度を提示しようかと迷っていたが、相手方は一切数字を口にせず、僕に決めさせてくれた。僕は成り行きと言うか、ご夫婦の善良さにとても救われたので、予定していた金額より100万円多く提示した。すぐに納得していただけ、最初のハードルを楽しく超えさせていただいた。
 あまりにも不思議な縁の連続で、亡き父に感謝し、関東で暮らす姉にも心の中で感謝した。ごくごく普通に生きてきた二人だが、その善良さ故に持つ力に助けられた。