価値観

 原発で関東から避難、いやもう牛窓に永住すると言っているから避難ではないか、引っ越してきた若いお母さんに、家を貸してあげようと提案していたが、結局はもう少し良い空き家が見つかりそうだ。母の家は専門家に診てもらったら柱がしっかりしているから、耐震工事は必要ないらしいが、小さいお子さんがおられるのでせめて屋根だけは瓦をとって軽くしてあげようと思っていた。ただ構造的に若いお母さんにはイマイチだったのかもしれないが、僕は僕が先頭を切ってその様な行動に出ることによって、全く不動産が動かない状態を打破してみたいと思っていた。何の得にもならないのに、ただひたすら先祖からの土地と言って手放さない人がまだまだ多いから、所詮土地なんて流動的な物だという印象を与えたかった。 彼女には母の家の裏の空き地を無料で駐車場として使ってもらっている。近所の人も勝手に使っているが、彼女には正式に使ってもらうことにした。今日彼女が漢方薬を取りに来たついでに、楽雁なるお菓子をお土産にくれた。なんでも本人お勧めの物らしい。包装紙は三越の物だったから、有名なのかもしれないが、なにぶん三越も楽雁も縁がないからただ単純に、かすかに栗の味がする和菓子を堪能した。僕はその味よりも若いお母さんの気配りの方が余程美味しかった。  幾多の禍をもたらした輩が罪にも問われず政界や財界で生き延びている。いやまだ増殖していると言った方がいいか。この若いお母さんのように、誰も責めずに懸命に追いやられた地で生きていこうとしている姿を見て何もしないなら、かの断罪されるべき輩と同族になってしまう。それは決して絆などと呼ぶ類のものではなく、寧ろ価値観に近い。