封印

 驚きの後に又驚きだ。  100歳を越えているのに、ただ一つのことを除いて何処と言って不都合な所はない。そのただ一つのことのために相談に来てくれたのだが、それ以外は一体何歳の方と肩を並べるくらいの健康度なのだろう。見た目にも当然100歳を越えているようには見えない。相談してくださった不都合に如何にお役に立てるか分からないが、あやかりたい気持ちを抑えて、偉業に貢献したいと思った。  付き添ってくださった息子さんの手助けなくほとんど必要な情報はご本人から頂いた。僕は基本的にはどなたもご本人と話をしたいから、なるべく通訳を介せないようにする。通訳がいるのは英語と○○○○語だけだ。  通訳をする必要がなくなった息子さんが何かの拍子に75歳と、ご自分の年齢を言った。100歳の方の息子さんだからその数字はいたって自然なのだが、僕にはとても違和感があった。「えっ、どなたが75歳?」と即座に僕は聞き返した。「私、私」と指でさしながら答えたのだが、どう見ても75歳には見えない。背筋が伸びて、髪は黒々とし、体の筋肉も落ちていない。僕より少し年上に見える程度だ。「信じられない」と僕が声で出して言ったのか、顔の表情だけで分かったのか忘れたが「今でもビルの3階くらい駆け足で上がってもへともないよ」とさらりと言ってのけた。それは自慢でもなにでもなくご自分にとってはごく当たり前のことなのだ。 お父さんの偉業に近い遺伝子を貰っていると僕が言うと、ご本人もそれを自覚していてて、超長寿は当然のような自信を見せていた。75歳まで、100歳までほとんど病気を知らない幸運は、何に比べればいいのだろう。それに優るものがあるのだろうか。職業柄健康な人とお会いする確率は低いのだが、ここまで幸運な人はそんなにいないのではと思う。  本末転倒のあやかりは、職業上の意地で封印。