ハギン

 僕らは「ハギン」と呼ぶがこれはどうやら共通語ではなさそうだ。先日備前市の日生に住む方が「ハギを一杯お父さんが釣ってきたから食べてください」と言って釣りたての立派なのを沢山持ってきてくれた。このハギはどうやら共通語に近そうだが、今インターネットで調べてみると「カワハギ」が正式名称みたいだ。   牛窓も漁港だから、その上海づたいなら日生までは少しの距離だから、魚は同じようなものだが、頂いたハギは大きくてとても美味しかった。どうしてこんなに味が違うのだろうと考えながら食べたくらいだ。鮮魚店に並べられる時間がないぶん、より新鮮だったのだろうか。  頂いた頃はその日生では何も起こってはいなかった。ところが最近ニュースの常連になっているあの忌まわしい事件が発覚してから、ふとあの魚は何処で釣ったのだろうと気になっていた。あの事件が起きてからやたらその辺りの人が薬局に、陸路なら30分はかかるのだが、やってくるような気がしているが、今日まさにその魚を下さった人が漢方薬を取りに来た。  まずはハギが美味しかった報告と勿論お礼を言ったのだが、一番聞きたい内容を次に尋ねた。「ところであのハギは何処で釣ったの?」と。すると相手はもう質問の意味が分かっていたみたいで船で沖に出て釣ったと教えてくれた。岸壁からあんなに沢山釣れるはずがないから勿論僕も分かっていたのだが、気にする人は気にするみたいで、以来魚を口にしていない人もいる。 おまけに主犯の女は日生のB級グルメが好きだったみたいでしばしば「カキオコ」を食べにやってきたみたいだ。人間の命を奪ってよく食事がとれるなと思うが、何が欠如すればあそこまで出来るのか僕には分からない。 とんでもないことに巻き込まれてその町は今、7機のヘリコブターが同時に空を舞い、騒音がうるさくて住民もおちおち仕事が手に着かないらしい。そう言った状況を「上の空」と言う。