資格

 「えっ、そこまで!」さすがの僕も声を大きくしてしまった。それはそうだろう、いくら資格を沢山持っているにしても、その資格を持っている人はさすがに少ないと思うから。 「待合室にずらーーと書いていますわ」と最初教えてくれた時は別段そんなに興味はひかなかった。ただ撲の漢方薬を飲んでくれている人が、僕の息子がバイトをしている医院にもかかっていることが分かって、唯一その事だけに興味があったのだ。患者さんが院長先生の話をしているときに、持っている資格の多さに驚いたことを話してくれた。先生一人のものではなくてスタッフ全員を集めるとの話らしいが、興味本位でどんな資格を持っているのだろうとホームページで調べてみると確かに多い。内科学会、消化器学会などから始まって聞いたことがない名前の資格が並ぶ。余程勉強が好きな先生と見えて医学関係だけで30くらいあった。専門医の他に所属する学会などを含めた数なのだがこんなにお医者さんは勉強しないといけないのかと思った。ただこの医療関係の資格の他がこの医院は凄い。福祉住環境コーディネーター 、 国内旅行業務取扱者、一般旅行業務取扱者、宅地建物取引主任者日本旅行地理検定B級試験合格、危険物取扱者、心理相談員、2級ボイラー技士、ファイナンシャルプランナー、法学検定試験4級及び3級司法コース合格、他アロマ検定 漢字検定などなど。  話を最初に戻すが、その患者さんも驚いたし僕も驚いたのがヘリコブターの資格まで持っていることだった。僕は操縦の資格を持っているのかと思ったが、患者さんはドクターヘリで診察する資格じゃないですかと言っていた。そんな資格があるのかなと思いながらホームページの資格一覧を見ていた僕ははたと気がついた。「奥さんこれじゃないの、待合室で見たヘリコブターの資格ってのわ」僕が指さすと女性は「そうですそうです、ヘリコブターって書いているでしょう」と答えた。さすがに資格が好きな先生でもまさかヘリコブターの操縦までと思ったのだが案の定だった。「奥さん、これは胃の中に住んでいる菌の名前じゃないの。ヘリコブターではなく、ヘリコバクターって書いているでしょう。日本ヘリコバクター学会って」「なんやへリコブターじゃないの」 飛んだ落ちだったが、僕も女性も顔の筋肉をしばらく弛緩できた。不安な症状を抱えた人が一瞬でも笑いで身体の力が抜けるのは薬なんかよりはるかに効果的だ。ずっとあの笑顔が続くようにと心の底で祈らずにはおれなかった。