危険

 僕は職業柄、身体にいいことは苦手だ。運動はしんどいからしないし、身体にいいものは不味いから食べない。特に日曜日などとなると薬剤師を全く忘れて、やりたい放題だ。 昼食はスーパーのファミリーレストランで、野菜がほんの少々添えてあるだけのハンバーグとウインナーソーセージと鶏肉を食べた。その後、2時間くらい炎天下に放置していた車で帰宅しなければならないので、水分を補給しておこうと自動販売機でスプライトを買った。サイダーのようでサイダーでない、少しは涼しさを呼ぶかなと宣伝に踊らされている。あの緑の容器も涼しさを呼んでいる。  レストランで昼食をした後、マメな僕はブルーレットの詰め替えとトイレの黄ばみ取りのサンポールを買った。緑色のスリムな容器に赤と黄色で「まぜるな危険」と書かれていいて、注意を喚起している。娘夫婦が昼前から薬局にきて日頃出来ない片づけごとなどをしていたが、帰ってしまえば最近とみに判断力が鈍ってきた母が一人きりになるので、僕は用事を済ませて家路を急いだ。運転しながら助手席に置いてあるスーパーの袋に手を伸ばし、スプライトを手に取り運転席のドアよりに取り付けてあるドリンク立てに置いた。事故恐怖症の僕は運転中よそ見などしないから、前を見たまま器用に右手の指の感覚だけでフタを開け始めた。いつもなら結構簡単に開くのだが、今日のはフタがきつく閉められていてなかなか開かない。と言うより、いつものようにフタに溝を感じない。つるつる滑るのだ。真正面を凝視している僕だが、何となく視界にはスプライトの緑のボトルは入っている。しかし、いよいよびくともしないので一瞬だけ目をやるとなんとサンポールだった。助手席からとりだしたのは、黄ばみ取りだったのだ。酸性で、アルカリのものと「まぜるな危険」と書かれているやつだった。  母を思う心で少しでも早く帰宅しようと思っていたから、車をスタートさせる時にあらかじめ蓋を開けて飲む用意をしておく時間さえ倹約した。ほんの数秒のことを倹約したばっかりにとんでもない目に遭うところだった。もし、サンポールの口が開けやすかったら、僕は一口くらいは飲んでいたかもしれない。でもまあいいか、トイレの黄ばみは勿論、心の黄ばみまでとってくれそうなデザインだから。でも僕の今回の経験を生かして是非サンポールの会社には注意書を変えて欲しい。「まぜなくても危険」と。