立地

 隣の県から薬剤師の方が訪ねてきてくれて7時間くらい居たが、今日訪問してくれたことが彼にとって果たして吉と出るか凶と出るか。 僕は、漢方薬局の実際を体験させて欲しいという夫婦を受け入れるに当たって、ありのままを見てもらうのが一番だと思った。僕のどんな解説も評価も彼らの大切な将来を左右する根拠としては希薄すぎる。ましてその決断に責任が持てないのだから、彼らの判断にこちらが介入すべきではないと思った。だから正直に隠すことなく全てを見せようと思った。そしてその通りに振る舞った。写真もメモも自由にしてもらったから、そして何より実際に多くの患者さんの漢方薬を、それも沢山の煎じ薬も作って貰ったから、かなりの情報を持って帰って貰えたのではないかと思う。  ただでは起きないのが僕の特徴で、勉強を兼ねて実地に薬を作ってくれる彼のおかげで、いくらかの時間を倹約できた。彼が漢方薬を作ってくれている時間に他のことが出来るから、結構楽というか便利なものだと感じた。教えることなど出来ないが、ただ見てもらうだけで、これだけの労働を見返りにして貰えたのだからありがたいものだ。そして何よりも薬剤師が4人も居たら心強い。  今頃彼は家に帰り奥さんに色々と報告しているだろう。いいところも悪いところも報告して、さて次に奥さんがやってくるかどうか。漢方薬局開業の夢を無惨にも今日の僕がうち砕いたか、それとももっと夢をふくらませたか。断りの大和と異名をとる僕が快く受け入れたことが、夫婦の人生を狂わせたか、それともいつかその県でもっとも信頼できる漢方の実力者となるスタートを早めたか。  何十年、立地の悪さと戦ってきた気概は残念ながら写真やメモでは伝わらない。実は一番大事なところだったのではないかとも思っている。皮肉にも未だ僕の薬局が残っている最大の原因がそれなのだから。