東京から来て、牛窓に住み牛窓で働いている若い女性がとても珍しいことを言った。そんな発想は全くなかった。自分にとって当たり前が、ある人達には全く当たり前でないことの衝撃は、たかが島くらいなことなのに結構大きかった。  「島って珍しいですよ」と言われて何のことかわからなかった。漢方薬を作っている間に「ご両親を牛窓に招いたことがあるの?」と尋ねたことが切っ掛けで、先のような言葉が飛び出した。彼女の言うには島が目の前にいくつも見える光景は東京には無いというのだ。東京で島と言えば三宅島などのことを指すから、はるか水平線の彼方に隠れているもので、かなりの労力を費やして行くところなのだ。ところが牛窓は、多くの島が目の前に点在し、その気になればちょいとフェリーで5分もあれば渡れ、島を自転車で1周出来たりする。これはこの辺りの人間にとってはなにでもないことなのだが、島を知らない人達にとっては、大変なことなのだそうだ。何気ない光景をこんなに賞賛されて照れるが、大きな発見でもあった。 そう言われて頭の中に日本地図を思い浮かべてみると、意外と島って少ないのかも知れない。余り旅行をしたことがない僕だから、実際に見たところは少ないのだが、太平洋や日本海ではほとんど島を見ることはなかった。主に瀬戸内を西に東に移動するだけだから島はいつも電車の中から目の中に入ってくるが、瀬戸内海をはずれると、確かに水平線しか見えない。水平線は水平線でしかなく、変化には乏しい。  何気ない会話の中に素敵な発見があるものだ。こうして人は他者から多くを補ってもらっているのだろうかと、たわいもない日常に感謝する。