草根木皮

 喘息ではないから呼吸困難はない。ただ、激しいときは数十秒に1回、咳き込むことを8年間続けたらどうだろう。想像しただけでも絶望的になる。咳続けて結果的に8年にもなるのならまだ耐えられるが、これから8年咳きなさいと言われたら果たして耐えることが出来るだろうか。若い女性があるストレスを切っ掛けにこんな目にあった。 喘息でなかったから(実際には喘息の薬も病院で処方され試みたらしいが)難しかったのかもしれない。現代医学では病因が見あたらないと治療がなかなか難しい。炎症反応も気管支の病的変化もなければ治療に苦労するだろう。ただ運のいいことに漢方薬の場合、目の前で繰り広げられる症状に対して薬を決めていけばいいので、最初の2週間目でかなり改善した。その後咳が収まってから次のこれ又解決が困難と思われていたものも完治した。そして数日前に家族の漢方薬を取りに来たときについに彼女の漢方薬はいらなくなった。2つの解決困難だったものが完治した。  今彼女は仕事に就いて、あるスポーツ観戦にはまっている。こんな日が来ることを家族の方は想像していただろうか。咳もしない、疲れもしないお嬢さんを何年目撃していなかっただろう。ごく当たり前の誰にでもある日常風景から遠ざかっている人が結構いる。そのほとんどは病院の医師達の手によって解放されるのだが、たまにその手から漏れたもので、漢方薬でしか救えない方に遭遇することがある。それこそが30年近く継続して漢方薬を勉強してきたおかげなのだ。飽き性の僕が良くもこんなに一つのものにのめり込んだと思うが、やはり上記のような感動に時々巡り会えるから、今も尚楽しく意気高く継続できているのだと思う。 このところ嬉しいことに、このお嬢さんのように社会に出てくれる、あるいは復帰してくれる若者が続いている。世の中に沢山いるその筋の匠のように若者を心と身体で導くようなことは僕には出来ないが、漢方薬で同じことが出来ることを沢山経験している。屈折した心で百円玉数枚にその日を賭けていたあの頃の僕が、時代を超えてうじゃうじゃと電子の巷を放浪しているが、草根木皮でこそ癒される傷もある。