草根木皮

 「効いたらいけないの」と言いたくなる。「感謝しているのか不安なのかハッキリせい」とも言いたくなる。ただ子煩悩のその男性にとっては、2日という数字は期待以上で余計戸惑っているのだろう。 子煩悩と言っても程がある。息子はもう充分30歳を越えている。ただ、子離れできていない男性にとっては30歳の息子も幼いときの息子も同じなのだ。それは良く分かるが程度にもよる。その程度を彼は大きく上回っているだけだ。  仕事の内容を聞いたら僕でもさすがに頭に来る。ただ雇われの身、雇用主に強くでられないのだろう。まして零細企業なら尚更だ。細身でか弱そうに見えるがさすがそれだけの労働に耐えられるのだから、若いって素晴らしい。僕なら即入院ものだろう。そんな彼でも数ヶ月に渡る超過勤務は体だけではなく心までも蝕んだのだろう。素直ないい子であることは幼いときから僕も知っているが、その長所が禍したと言える。潔癖に仕事をこなそうとしてどんどん自分を追いつめたのだろう。傍で見ていて痛い程イライラしているのが伝わってきたらしい。留めは家族で買い物に行ったとき、まともに車をまっすぐ走らせることが出来なかったらしい。慌てて注意したら、本人は白線に沿って走らせているらしかったが、実際には大きく蛇行していたそうだ。 ある体験から父親は心療内科の受診を避け僕に相談に来てくれた。ほとんど逆のケースばかりだからまず僕のところに心のトラブルできてくれる人なんか珍しい。それだけ症状が新鮮だから治り安くもある。2週間分漢方薬を作ったが、感触ではもっと早くイライラはとれると予想していた。2日前に2週間分漢方薬を渡しているのに、今日も2週間分作ってと言う。どうしてと尋ねると「奇蹟みたいに効いたから沢山キープしておく」のだそうだ。僕は有り難いが、そこまでしなくていい。「○○さん、沢山買ってくれなくてもいいよ。僕は手みやげで十分嬉しいから」と手ぶらの彼の手許をしげしげと眺めた。  常日頃親しいことがもたらした好結果だ。まるで冗談のようにやりとりできるから内面が手に取るように分かる。分かれば処方は自ずと浮かび治癒の確率も高い。草根木皮がもたらす自然の恵みに秘めたる計算はない。人が力みを捨てて救われるように、人類も又力みを捨てれば大いなる恵を頂いて長らえるだろうに。