教え

 今頃その女性はどの辺りを車で走っているのだろう。神戸辺りか、それとももう大阪を通過しているだろうか。決して大きくない自動車で、それも一人で運転して奈良まで行くのは大変だろう。どこをどう通って行くのかさっぱり分からない僕は、ただ「大変」だけが分かる。僕と余り変わらない年齢だから、体力がそんなにあるはずがない。運転嫌いな僕と比べることは出来ないが、お子さんのためという唯一の動機が体力を後押ししているのだろうか。 お嬢さんが魚介類を昨日食べて嘔吐下痢で苦しんでいるらしく、ノロウイルスによる胃腸炎と病院で診断された。病院で診察を受けているのだから心配はないのだろうが、お母さんは僕の漢方薬の方が圧倒的に早く治ることを体験的に知っている。だからどうしても早く飲ませてあげたかったのだろう。奈良だったら宅急便で送れば明日の午前中には着くが、一刻も早く治してあげたいと言う母心だろう。 ここまで信頼してくれれば薬剤師冥利に尽きるが、責任はメチャクチャ重い。ノロウイルスには漢方薬がよく効くから、不安はないが、それでも1時間でも早くお嬢さんの不快な自覚症状が消えることを祈っている。お母さんの愛情がより力になって、遠くで暮らすお嬢さんの不快をより早くとってあげて欲しい。賢明にして、愛情深く、それでいて力強い母親を持ったお嬢さんの幸運を思う。そのおかげで備わったお嬢さんの穏やかで優しい気質も、えてして凍り付きやすい現代の空気の中で、得難いものだ。親の生き方がこんなに子供に好影響を与えるのかといつも感心してみていたが、そう言った光景を薬局の中でもっともっと多くみたい。その素質を持った人達が結構来てくれる薬局だと自負はしているが。 命に代えても守る・・・漢方は母と子の関係をそう教えている。教えの通りの母親に教えの通りの漢方薬を作った。