魔法

 「魔法の薬ですね」と最上級の褒め言葉をお医者さんの家族にもらった。その言葉に比例して高額な商品だったらいいのだけれど、僅か650円だから、心には響くが経済には響かない。世の中よくできていて、えてしてこんなものだ。体臭の塗り薬は若夫婦が作っているのだが、恐らく原価計算してこんな値段を付けているのだろう。魔法くらいなら○がもう一つや二つ付いていてもよかったのだろうが、残念ながら所詮田舎者で常識外れのことをする勇気はない。田舎には田舎の常識があり、田舎には田舎の良識がある。 今回と同じケースが数年前にもあった。成長期の息子さんの前でお母さんが「臭い、臭い」を連発していた。お母さんは笑いながら、それでも真剣に相談されたが、傍でそう言われている息子さんも決して怒ることなくお母さんの言葉を聞いていた。そのお家もお医者さんの家族だったが、ざっくばらんな雰囲気は共通だ。経済的に恵まれているだけでなく、親子の人間関係までもがとても恵まれていた。幸せを集める要因が普通の家庭より多いのだろうか。  ただ、どちらの家庭も、年頃の息子さんの体臭には困っていたようで、そこは僕らより数段敏感だと思った。男の子の体臭くらいほうっておけば良さそうなものだが、何故かこだわっていた。余り恵まれてくると整わないことへの寛容さが少しかけてくるのかもしれない。言葉は悪いが、何もかも劣っている人達の強さとは対角線上にある。  体臭だけでなく、日々応対する人達に魔法の薬を届けたいが、当然実力通りの結果しか出ない。幸いにも僕の薬局は漢方薬を飲んでくれる人が多いから、検証をくり返すことが出来た。魔法のような実際の治験を謙虚に積み重ねていかないといけないと思っている。