異物

 彼女にとっては衝撃だったみたいだ。目から鱗って言う表現が適しているのかもしれない。 念願の医療関係に就職できた彼女が仕事を始めてすぐに気がついたことがある。それは彼女ががんとして避けていた抗ウツ薬や安定剤がかなりの患者さんに、彼女の言葉を借りれば「来る人来る人」に出ているって事実だ。それも心療内科ではなく、どこにでもある内科での話だ。  もう20年も前の話だと思うが、僕の先輩が「俺の所に来る半分は心身症やで」と何弁か分からないような言葉で教えてくれたことがある。そんなものかと当時は聞き流していたが、この20年の間に「半分」から「来る人来る人」に増えたことになる。特にルボックスが新発売されてから、人為的な臭いも含めて患者が急激に増えた。  時代のせいにすれば、抗ウツ薬市場が正当化される。どんな基準でそれらの薬が投与されているのか知らないが、作られた患者もかなり含まれているはずだ。ちょっと話を聞いてあげるだけで、ちょっと不満を口から出させてあげるだけで、ちょっと誰かの悪口を言わせてあげるだけで、ちょっと羽目を外させてあげるだけで解決するものが、投薬の対象になる。全てが経済活動の一環なのだ。体の中に薬という名の化学薬品が廃棄される一連の経済活動なのだ。 多くの人が何の疑問も持たず毎日口にしている光景を目の当たりにして、彼女がどう行動するか分からないが、願わくば今まで通りに草根木皮で体調や心を整えて欲しい。脳みその中に簡単に化学物質が入り込むようには人間はなっていない。異物を脳から排除してきた人類に、大量消費を煽る企業こそ社会の異物だ。