荒野

 改革派官僚と言われる古賀さんが役所を去った。出版した本を読んでいないから詳しくは分からないが、いつものように辞めてからマスコミはネタにする。彼が本当に力を発揮したらマスコミも電力業界との癒着を暴かれるから、影響力がなくなってからネタにする。本当につまらない奴らだ。マスコミに就職する人間の質がかなり低下しているのだろう。それとも昔から所詮この程度か。彼が能力を発揮できない環境を作った奴らは胸をなで下ろしているだろう。げに恐ろしい国だ。どこかの国のように超権力者が返り咲いて権力を行使するのと何ら変わらない。 それにしても久し振りの美学を見せられた。小出先生と同じような印象を持つ。権力を欲しがらず、権力に盲従せず、正しいと思ったことを曲げない。視線は常に下流にある。あのすがすがしさはなかなか現代では目撃出来ない。上は国家を動かす現場から、下は小さな集団まで、ろくでもない人間が支配したり仕切ろうとする。ろくでもある人はそう言った欲望がないから、ろくでもない力を行使しないが、ただろくでもないやつや胡散臭いやつには一際精巧な嗅覚を持っているから、本能的に対峙する。  最早正義などというものを教えるところは何処にもないから、それらを身につけた人が出てくる環境にはない。精神を鍛えられるよりは、目の前の問題を如何に効率よく人より早く解くかを教え込まれた人間が、この国の中枢を動かしているのだから、余程の幸運な巡り合わせに遭遇した人以外は、罪を自覚できないまま人を苦しめる。  正義という名の下に多くの犠牲を強いられた時代に戻れと言うのではない。声高らかに唱えられるのではなく、ささやくように胸に忍び込むものでよいから、誰かがしっかりと伝えていかなければ、巷からそれらはやがて姿を消してしまう。そうなればどんなに生きづらい世の中になるだろう。窒息の荒野では暮らしていけない。