肥満

 共通項を捜しても、何一つなさそうな二人なのに同じような人間もいるものだと思った。遠くから来てくれた、若くてまるでモデルのようなスタイルの女性が「食べることに興味がないんです」と言った。古くてまるでプラモデルのようなスタイルの僕が言うのならまだわかるが、テレビの食べ歩きでもすればぴったりのような女性が、僕と同じような、あの頃の僕とも同じようなことを言ったので意外な感じがした。ただ彼女は野菜を中心に食べているみたいだから、それはそれでいいし、あのスタイルはそれで保証されているのかもしれない。  問題は僕だ。僕の場合、若い頃の唯一の満足は腹十二分だった。腹八分でも、腹十分でもなく、食べ過ぎて吐き気がするほど詰め込むことだけだった。お腹がぱんぱんに満たされれば、内容はいっさい問わなかった。米だけで良かった。塩をかければ美味しくて、カップヌードルをかければさらに美味しくて贅沢だった。おかげで体は悪くしたが、贅沢とは無縁になった。人並みに美味しいものは美味しいが、敢えてそれを求めると言うことは以後一切なかった。与えられたものを食べるだけで、空腹が満たされればそれだけで食べることの目的は達せられた。  この習性を情けないとも哀れとも思わない。それに費やす努力を恐らく他のものに回しているだろうから。何処に回してどの様な果実を得ているのか定かではないが、体型だけでなく恐らく心もスリムになっているだろう。心も身体も肥満は僕には似合わない。