微力

 「綺麗なのにびっくりした」嬉しい評価だが、やってくる前はどのように想像していたのか気になる。
 県南唯一の過疎の町で漢方薬を扱っている薬局があることを見つけてやってきた若い二人連れの女性だったが、一人はインターネットで見つけ、もう一人はヤマト薬局のチラシを見て知ったらしい。
 ある病気の相談だったが、僕のところに来る前に、その町の漢方薬局?で相談したらしい。すると牡蠣肉エキスを勧められて「これは何か違うな!」と感じて買わずに出てきたらしい。漢方薬の相談に行って、健康食品では素人でも何か感じ取るだろう。
 その流れなのだろう、最初は簡単な症状のほうが相談した。それを横から見ていた本命が後から相談してくれたのだが、要領をを得ない。恐らくこのような状況は初めての経験なのだろう。僕の薬局を知っている人は、僕に不快症状と言うか改善してほしいところを上手く伝えてくれる。もう何度も会話をしている人がほとんどだからお互いに要領を得ている。ところがさすがに遠方から来てくださる人は、商売上手なお店の経験者が多いから、お互いに話をつめていくことに慣れていない。饒舌な店主に乗せられてきたトラウマから警戒心も強い。
 「服が乱れているよ」と教えてくれたある奥さんは、見るからに垢抜けていたが、ある偶然のきっかけで東京出身だと分かった。なるほど合点がいく。この女性はかなり重篤な病気が僕の漢方薬で改善して、今では服の乱れを注意してくれるほど親しくなった。「服は乱れているけれど心は乱れていない」とすぐに返り討ちにしてやったが、こうしたやり取りができるのが僕の薬局の武器だ。最近は、娘が薬局内のことのほとんどをやってくれるから随分とおしゃれになった。僕には全く不釣合いだが、やって来てくださる人には評判がいい。おしゃれでも贅沢ではない、豪華でもない。ちょっとした工夫がなされているだけだ。
 僕の薬局のようなところがどんどん廃業している。漢方薬や言葉が必要な人がさまよっている。40年微力ながらこつこつ積み上げた漢方の知識や人生観が役に立てれればうれしい。