助言

 ある団体職員の男性がハチのスプレーを買いに来た。毎年恒例の行事だ。何の理由か知らないが余程ハチに好まれる建物の構造なのだろう。取りに来る係も毎年決まっていて、50前の男性がやってくる。独身男性で酒と肉があれば幸せと言うタイプで、素人相撲なら幕内力士になれそうな体型だ。その種の人によくあるようにいたって童顔で実年齢には余程のことがない限り見られないだろう。  薬局に入ってきたときからある女性に対する不満がほとばしる。どうやらその団体の事務職員らしい。「事務のおばちゃん」「事務のおばちゃん」と何回も繰り返されたから、親近感があるのかと思ったらどうやら逆で天敵みたいな関係らしい。その憤慨ぶりに多少興味があったので、どのくらいの歳の人って尋ねたら、自分より年上だと言っていた。感情の起伏が激しくてどうやらそれに振り回されているらしい。誰にもと言うべきか、何処にもと言うべきか、苦手な人はいるもので、こいつさえいなかったら天国なのにと思ってしまうことはしばしばだ。自分のために世の中があるのならこの世は天国だが、残念ながら世の中は存在する人全部のものだから、この世はおおむね地獄なのだ。憤懣やるかたない彼は「このハチのスプレーで殺してやろうか」と最後に笑いながら言ったから、薬剤師の僕がそんな不謹慎な言葉を聞き逃してはいけないと思ったので彼に助言した。「どうせなら、隣の大きなスプレーの方が強いよ」と。