自戒

 ここ数日でいったい、何人の方を喜ばせたのだろう。  僕が一言でも発すると「あれ、風邪ひいてるの?」と、まるで条件反射のように返ってくる。その数は優に数十人に達すると思う。又かというのが最後の頃の感想だったから。そしてその言葉に必ず嬉しそうな顔が添えられている。他人の不幸がそんなに嬉しいのと思うが、それこそ滅多にひいたところを見たことがないからだろう、まるで鬼の首を取ったような喜びようだ。 実は牛窓では風邪がはやっていて、娘夫婦が作っている薬局製剤の風邪薬でほとんどの人が十分効いて喜んでくれている。1包が100円、3日丸まる飲んでも900円という値段も手伝ってか、もう一冬分すんだのかと思うくらい沢山の人がその風邪薬を取りに来てくれた。それだけ応対しているのだから、当然僕もいつの間にか感染して、いつの間にか治っているのだろうと、だから免疫は僕の身体では完成しているだろうとたかをくっていた。ところが立派にひいてしまった。当初のどがかなり痛かったが、皆さんの症状を見ていて大したことがないことが分かっていたので、なにもせずに成り行きに任せていた。以前ならこのタイミングでバレーボールでもすれば一気に治っていたのだが、今はそう言った荒療治をする体力も気力もない。そのうち、鼻が詰まり痰が絡み始め、そこでやっと、意外と手強いことに気がついた。気がついてから薬を飲み始めたのだが、後の祭りで、結局は1週間近く例の鼻声が続いた。  風邪を疑わせるのは鼻声だけなのだが、それが一番相手にはわかりやすい。だから僕の一声で気がついてしまう。移さないでと警戒心をあらわにしているのか、あの100円の風邪薬が効かないの?と色々な思惑を秘めた「あれ、風邪ひいてるの?」が飛び交った。もう最後にはこちらも居直って「風邪くらいひかせて、福山雅治でもひくわ」と答えることにしていた。 風邪なんて薬を飲んで寝ていればまず治るが、薬も飲まない、寝もしないでは、結構日数を要することを体験した。今までは交替がいなかったから神経質に対処していたが、今は僕以外に2人も薬剤師がいるから、いつでも休めるという緊張感の無さのなせる技だったのかもしれない。ただ、風邪は結構不快だ。初心に返ってこれからは慎重に対処しようと反省した。それにしてもあの「あら、風邪ひいているの?」攻勢には参った。その誰もが善意のいい顔をしているから、風邪以上は避けないといけないと自戒した。