紫根

 またまた狂想曲の再来か。例のマスク事件で懲りたから今回は冷静に対処している。 昨日の朝から電話が鳴り続けた。全くの不意打ちだ。その中の一人が理由を教えてくれたのだが、ミューズ石鹸の名前に似ている何とかという番組で紫根と言う薬草がシミに効くと言ったらしい。誰がどの様に言ったのか知らないが、水溶液を作って塗ると1ヶ月くらいでシミが取れるのだそうだ。僕が知らないような番組をこんなに観ている人がいるのかと思うくらい電話が続いた。勿論僕は紫根を常時在庫しているが、元々売るためのものではなく、紫雲膏という漢方薬の軟膏を作る為の材料として在庫しているだけだ。だから一袋あれば十分なのだ。最初に電話がかかってきた人はそれでもいいから分けてくれって事だったので、分けてあげた。その後電話が続くので問屋に電話したらもう在庫がないと言われた。さすがに僕の薬局は通常の漢方薬仕入れが多いから優先していくつかは送ってくれたが、焼け石に水ですぐになくなった。  それにしてもこんな小さな町でもこの反響だから、日本全国に換算したらとんでもない数の紫根が売れるだろう。どうせ誰かが仕掛けたのだろうが、凝りもせず踊らされるものだ。まあ、その傾向は毎度こんな事がある度に目撃しているが、事がこの程度の罪のないことだからいいようなもので、政治とか宗教とか道徳などの分野で容易に踊らされる人が続出するのは恐ろしい。以前にも言ったが、この国の人はうさんくさいものをかぎ分ける嗅覚が最近極端に落ちている。あの手この手で仕掛けられる罠に、犬並みの嗅覚を持っていないと我が身は守れない。  新型インフルエンザが後何年連続して流行ってもさばけないほどのマスクを多くの薬局が在庫している。僕も当時、ないと答えるのがいやで沢山仕入れて、未だ一杯マスクを抱えているが、紫根では同じ過ちを犯さないように考えている。そもそも紫根単独でシミが取れるかどうかも疑わしいのだから。紫雲膏を塗っても半年はかかるのに、紫根単独でどれだけ効くのだろう。調子に乗って今回は多く仕入れないようにしている。しみったれと言われようが、取れもしないシミが1ヶ月で取れるように言うよりは気が楽だ。