紫雲膏

 手作りといえば何か食べ物か工芸品みたいだが、僕の薬局の紫雲膏も完全な手作り品だ。ただし薬だから材料に決まりはある。成分や配合比率も決まっている。それなのに褒めてくれるのは、材料に最高級品を使っているからだろう。国産がいいとは限らないが、紫雲膏の材料に限っては国産品がいい。いみじくも今日二人の方が我が家の紫雲膏について話題にしてくれそれぞれコメントをくれた。  初めて訪ねて来てくれたある男性は、結構遠くから来てくれたのだが、最近近所の薬局が廃業して買い物をするところがなくなり、わざわざ来てくれたらしい。ある買い物を済ませた後、紫雲膏の話題になり、何十年前に買った様な色の紫雲膏が最近はないから仕方なく色のうすいのを買っていると嘆いた。昔のは良く効いていたが最近のは効かないと、まるで通のようなことを言った。そこで我が家の紫雲膏を見せると「ああ、この色、これを探していたんですわ」と喜んだ。料理に使うにはもったいないくらいの値段のごま油をわざわざ買ってきて使っている。生薬の油性のエキスを存分に溶かしてくれているのだと思う。  ある若い女性は、お母さんが我が家の紫雲膏をかかとの荒れに使っているのだけれど、飼い犬がぺろぺろなめるのだそうだ。「犬がなめるのだからよほど自然な材料で作られているんでしょうね」と言われた。そうなのだ、軟膏ではなく飲み薬の材料にしても差し支えないものでできているから、動物も抵抗なく口にするのだろう。ごま油に豚脂に薬草と来たら薬膳みたいなものだ。  最近近隣の地域で薬局の廃業が相次ぎ、僕の薬局から一番近い「昔ながらの薬局は」ひょっとしたら20kmくらい離れているかもしれない。だから行き場を失った方々が良く来てくれる。ドラッグでも調剤薬局でも目的を達することが出来ない人は多くいて、従来薬局が蓄えてきた知恵を求めて訪ねて来てくれる。こんな田舎でなぜ昔ながらの薬局が生き残っているのか不思議に思っているかもしれないが、誰も代わりをすることが出来ない薬局を目指して努力してきたから、今でも残っているのだと思う。ドラッグや調剤薬局のように、誰がやっても同じ・・・は僕は苦手だ。