土蔵破り

 掟破りだが仕方がない。何度も断ったが、家族の思いは真剣で、頼みに来た方も過去に漢方薬でお世話をし、いい結果が出せれているし、そのお子さんもあるトラブルを漢方薬で完治させれたしで、外堀は埋められていた。それらの経験があったから相談してくれたのだろうけれど、大病院に入院しているお父さんの漢方薬を作ってという依頼だから、二の足も三の足も四も五も踏んだ。これで薬を作れば親子3代と言うことになる。  ある手術のあとが思わしくなく、化膿して熱が収まらないという。抗生物質の点滴をすると一時はいいのだが、止めるとすぐに元に戻ってしまい、退院の日がやってこないと相談を受けた。入院患者に、してはいけないというか、レベルが違いすぎて意味のないことは一杯ある。いや逆に出来ることといえば一つだけだ。元気にすることだ。そのあたりは天然材料を使うことが出来る僕らの薬局のほうが武器を持っているから、それなら協力しても許されると思った。そこで二つの武器を用意した。金額がかなり違うので当事者に選択してもらったら、効果がより期待されるほうを選んでくれた。そして今日・・・  数日前に漢方薬を取りに来てくれた方が嬉しそうな顔で報告してくれた。あれだけ食べなかった病院食を食べ始め、翌日には倦怠感を訴えなくなり、化膿部位も消えたそうだ。そして今日退院されたらしい。早く退院させたいという家族の願いだったので、かなえられたということになる。  家族の強い意思が貢献したのか、その材料を作っている製薬会社が貢献したのか、どちらでもいいが、家族のほんの些細な希望がかなった。この程度の掟破りなら紳士協定の範囲と勝手に理解しているが、本当は国という秘密の宝を隠している巨大な屋敷の土蔵でも破ってみたいものだ。救われる人がわんさと出るのではないか。